全地連 技術e-フォーラム2002よなご

直立補強土壁の壁面変形計測方法 (2003/06/20)

秋友 学

はじめに

延長140m の直立補強土壁が既設している。竣工後18年経過した現在,擁壁の変状が延長100m にわたり発生している。その変状は最大30cm の壁面のはらみ出し,最大15cm の壁面部材間(目地)の開口などである。

変位の進行性を確認する目的で,下げ振り・伸縮計・地盤傾斜計・亀裂計・鋲と多種の観測を行い,それぞれ検討を加えながら実施した。緩傾斜の自然斜面上に擁壁高8m,上載盛土高4m,総擁壁前面には重要施設があるため,現段階におけるこの実例を紹介し,利点・欠点について述べる。

現場の状況と原因の推測

図-1に擁壁位置を示した。白抜き部分が変状の発生している区間で,変状の形態を図-3,図-3A,図-3Bに示す。主に目地の開口,擁壁のはらみ出しが発生している。この盛土材には,現地流用土と思われる頁岩が一部見られ粘土化している。また,地下水が排出する目地には橙〜黄褐色の二次生成鉱物が付着している。安全管理については,維持管理段階で特に規制はないが施工段階の出来形基準は次である。「完成した補強土壁の垂直精度は,鉛直線に対し0.03H,或は30cm 程度の誤差であれば許容値の目安となろう」

図 1. 図-1

図-1

図 2. 図-2

図-2

図 3. 図-3,3A,3B

図-3,3A,3B
図-3,3A,3B
図-3,3A,3B

壁面水平変位量は最大30cm,許容移動量は24cm(0.03×8m)なので変状の許容を超えている。(図-1A〜B 間)

この原因は,1)土質定数の低減,2)地下水位の上昇と考えられる。また,図-2(1)・(2)の事象より基礎地盤は不動と考え,現在の変形は地元聞き取りから緩慢に進行していると推測した。

計測結果の考察

  1. 下げ振り: 現地は風の通りが良い場所であったので保護管を取り付けても下げ振りが落ち着かない。風に揺られ,更に糸が捩れるので±5mmの誤差で下げ振りは動き測定に時間がかかった。本地の変状は最終的に年5mm以上の変動はないと他の計測結果から判断したので,表-1,図-4に示した観測期間中動かなかったものとすれば表中の測定が誤差範囲と考えられる。測定時間は1箇所につき無風で1分,風があれば5分以上はかかる。

  2. 伸縮計: はらみ出しの水平変位を確認する為, 図-3Bの設置を行った。当初,伸縮計を固定する支柱は単管で設置した。日光を受ける箇所においては±0.3mmの日変化で明らかに単管は温度変化の影響を受ける。(図-5上) 電柱による支柱に変えてからは温度変化の影響は除去出来た。(図-5下)

  3. 地盤傾斜計,亀裂計: 図-3Aのように,両器共ほぼ同一地点での測定である。地盤傾斜計は日平均変動量2秒,月間合成変動量10秒,亀裂計は月間平均変動量0.3mmであった。亀裂計の測定部には,温度変化を避ける目的で日よけのカバーを付けたが図-6のように気温の変化と同調した±0.3mm/日の変動が見られた。地盤傾斜計に使うガラス厚については指針や手引きに明記されていない。コンクリート台の膨張により薄いガラスであれば割れる恐れがある。我社の実績では5mm 以上が望ましいと考えられる。

  4. 鋲: 設置も観測も容易であり,かつ観測点として保存よく残るので確実である。ただし,設置箇所によっては観測に手間がかかる。

図 4. 図-4

図-4

表 1. 表-1:下げ振りによる観測結果(測定値:cm)

測定月日(H12)測定箇所
1234
06/0617.921.021.317.8
06/1317.921.021.317.5
06/2017.921.021.317.5
06/2717.521.021.417.5
07/0317.521.021.417.6
08/0117.521.021.417.6

図 5. 図-5

図-5

図 6. 図-6

図-6

まとめ

上記の観測結果から各種計測手法の長所短所は以下である。

  1. 亀裂計は温度変化を受けるので,クラックに設ける場合は温度の影響を考慮する必要がある。これは意外と面倒であり,微小な変状は捉えにくい。

  2. 地盤傾斜計は精度が良すぎるので基底変動であるか変状であるかを判断しづらい。

  3. 鋲2点間の距離測定は,微小な変状は判断しにくいが,固定点として残るので長期観測の場合は有利な場合がある。また,大きな変状が考えられる場合も有利である。

  4. 伸縮計は,水平変位を連続に記録でき,警報を出せる利点がある。±0.5mm の精度と割り切って使えば有利な方法と思われる。施工途中に変形が予想される場合も適すると思われる。ただし,設置場所に制約がある。

  5. 下げ振りは固定点として残るので設置に工夫すれば,良い観測結果を得られる。誰が見ても一目瞭然であり費用もかからないので緩慢な変動の場合は良い手法と思われる。